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福岡高等裁判所 昭和63年(ネ)54号 判決

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人渡邊訴訟代理人及び控訴人東亜運送有限会社の代表者(陳述擬制)は、「一原判決中控訴人関係部分を取り消す。二被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。三訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、左のとおり付加するほか、原判決中控訴人ら関係部分の事実摘示及び当審証拠目録の記載と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決一六枚目一行目の「別紙一」を「別紙」と改める。)。

1  当審における控訴人渡邊の主張

(一)  控訴人渡邊と被控訴人は、本件各不動産について買戻特約付売買契約ないし譲渡担保設定契約を締結した事実はないにも拘わらず、同控訴人は錯誤に基づき、原審において、本件各不動産につき本件譲渡担保設定契約を締結した旨自白したから、当審においてこれを取り消す。

(二)  被控訴人の本件仮登記は控訴人渡邊の意思に基づくことなく被控訴人において一方的になしたものであり、無効な登記である。

(三)  仮に、控訴人渡邊と被控訴人の間において、本件譲渡担保設定契約が有効に成立したとしても、昭和五九年二月五日、訴外西尾が同控訴人に新たに四五〇〇万円を交付し、同控訴人は被控訴人に更めて本件各不動産につき所有権移転登記手続を行うべきことを約定したものであるところ、右約定が本件譲渡担保設定契約に関する示談ないし少くとも条件変更の意味合いを有することからみて、控訴人渡邊と被控訴人間において同日本件譲渡担保設定契約を合意解除したというべきことが明らかである。

(四)  そうでないとしても、本件譲渡担保設定契約の被担保債権である被控訴人の控訴人渡邊に対する貸金債権は、金二億円から訴外西尾信寛が着服領得した七九九〇万円を控除した残金一億二〇一〇万円についてのみ有効に成立したというべきであり、更にそうでないとして二億円全額について有効に成立したとしても、いずれも天引利息である内金三〇〇〇万円について利息制限法所定の元本充当計算をすれば、訴外松永において被控訴人の代理人であるか、そうでなければ被控訴人の貸金債権の準占有者である訴外西山謙一に支払った合計二億五〇〇万円により、被控訴人の貸金債権は全て消滅した計算となるから、被控訴人の本訴請求は失当である。

(五)  以上の主張が全て理由がないとしても、被控訴人が本件譲渡担保設定契約に基づき同控訴人に対し譲渡担保権の実行を通知したのは昭和六二年八月二一日であるところ、同日現在における同控訴人の被控訴人に対する貸金債務を約定利率日歩四銭一厘、約定損害金率日歩八銭二厘にしたがい算出すれば一億一〇四六万〇九四四円となり、これに本件譲渡担保権に優先する抵当権者である訴外住宅・都市整備公団の残債権二億七五四二万円を合わせた計三億八五八八万〇九四四円を同日現在の本件各不動産の価額である六億円から控除すると残金は二億一四一〇万円となるから、同控訴人は被控訴人の本登記請求に対し右金二億一四一〇万円の清算金の支払と引換給付の判決を求める。

2  被控訴人の答弁等

(一)  控訴人渡邊の右主張は全て争うか否認する。

(二)  本件譲渡担保設定契約の被担保債権額について、控訴人渡邊は訴外西尾信寛が着服領得した七九九〇万円については消費貸借が成立していない旨主張するが、同訴外人が控訴人側の人物であって被控訴人側の人物でない以上、同訴外人の着服行為のごときは同控訴人と被控訴人間で成立した二億円の消費貸借の後に同控訴人の内部において生じた事情にすぎず被控訴人とは無関係である。

(三)  同控訴人の弁済の抗弁について、訴外松永が訴外西山又は被控訴人に対し送金した合計二億五〇〇万円は実質的にも形式的にも同控訴人の被控訴人に対する貸金債務の弁済でありえない。

(四)  同控訴人の引換給付の申立てについて、被控訴人が本件譲渡担保設定契約に基づき同控訴人に対し譲渡担保権の実行を通知し清算金がない旨の意思表示をしたのは昭和六二年九月八日であるが、同日現在において、本件各不動産の価額は競売事件の評価額である一億四九〇七万六〇〇〇円にすぎないが、仮にそれが低額にすぎるとしても、同日現在における本件譲渡担保設定契約の被担保債権額二億円とこれに優先する訴外住宅・都市整備公団の被担保債権額の元利合計約四億四四〇〇万円を合わせた六億四四〇〇万円に遠く及ばないことが明白であるから、被控訴人が譲渡担保権の実行に当たり同控訴人に交付すべき清算金はない。したがって、同控訴人の引換給付の抗弁は理由がない。

理由

一  当裁判所は、当審における新たな証拠調べの結果を参酌しても、被控訴人の控訴人らに対する本訴各請求は正当としていずれもこれを認容すべきものと判断するが、その理由は左に付加、訂正するほか、原判決理由説示中控訴人ら関係部分と同一であるから、これを引用する。

1  控訴人渡邊は、当審において、本件各不動産につき被控訴人との間において本件譲渡担保設定契約を締結した旨の原審の自白は真実に反し錯誤に基づくから取り消す旨主張し、〈証拠〉中には右主張に符合する部分があるが、当該部分は同時に右本人尋問の結果及び前示引用の原判決理由説示から明らかなとおり昭和五八年一二月二二日福岡市のホテルニューオータニ博多において同控訴人が被控訴人代表者に対し本件融資に関する包括的代理権限を義弟である訴外松永に付与している旨表示したこと及び同控訴人において同訴外人に本件譲渡担保設定契約の締結に必要な実印、印鑑証明書等を交付している事実と対比して採用することができず、他に右自白が真実に反することを認めるに足りる証拠はなく、却って、同控訴人名下の印影が同控訴人の印章により顕出されたことにつき当事者間に争いがないことにより結局〈証拠〉を総合すれば、昭和五八年一二月二四日同控訴人の代理人訴外松永と被控訴人の間において締結された契約は、被控訴人が同控訴人に対し同日金二億円を、利息三〇〇〇万円を天引きしたうえ、弁済期昭和五九年三月三〇日、利息日歩四銭一厘、損害金日歩八銭二厘の約にて貸し渡すと同時に右消費貸借上の債務を担保するため同控訴人は被控訴人に対し昭和五八年一二月二四日その所有の本件各不動産を譲渡するとともに同控訴人は右貸金の弁済期までに二億円にてこれを買い戻すことができるが、その占有は同控訴人から被控訴人に移されることのないこと、しかし登記手続は所有権移転登記でなく同日売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由すべきことを約定したものであり、右約定の趣旨を総合的に考察すれば、その実質は買戻約款付不動産売買契約という契約証書(甲第九号証)の文言に拘わらず一種の帰属清算型の譲渡担保設定契約であり、登記原因を譲渡担保に代えて売買予約としたいわゆる仮登記譲渡担保の性格を有するものと解する余地のあることが認められるから、この点の同控訴人の主張は採用することができず、被控訴人主張の本件譲渡担保設定契約の締結は同控訴人において自白したものと認めなければならない。

2  また、同控訴人は本件仮登記は同控訴人の意思に基づかない無効な登記であると主張し、前示同控訴人各本人尋問結果中には右主張に副う供述部分がある。

しかしながら、本件仮登記の基礎をなす本件譲渡担保設定契約の締結が前示のとおり認められるところからして、その所有権移転を保全すべき仮登記が同控訴人の意思に基づくことなく行われたとする主張自体首肯しがたいのみならず、右主張に副う控訴人本人尋問の右供述部分についても、前示引用の原判決理由説示中の本件融資前後の経緯及び同控訴人の訴外松永に対する代理権付与の態様と代理権の内容等と対比して考えれば、右供述部分は買戻特約付売買契約に伴う所有権移転登記かそれに代わる譲渡担保ないし売買予約等を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記か或いは金銭消費貸借契約に伴う抵当権設定登記かの法律上の性格の違いを強調する以上のものではなく、いずれも二億円の貸金債務の担保の趣旨を有する限りにおいて同控訴人の意思に副わないものとは認められないばかりか、当審における同控訴人本人尋問の結果によれば同控訴人は訴外松永に対し本件融資の担保に必要な登記関係書類として各種書類を任意に交付していることが窺えるのであって本件仮登記を設定することも充分予見したうえのことであったと認めるのが相当であるから到底採用の限りでなく、同控訴人の主張は失当である。

3  本件譲渡担保設定契約の合意解除について、同控訴人は、昭和五九年二月五日の約定を目して本件譲渡担保設定契約に関する示談ないし条件変更の意味合いを有する合意解除であると主張するが、本件全証拠によるもこれを肯認できる証拠はない(なお、原判決一〇枚目裏七行目の「京都市の都ホテル」を「京都市の新都ホテル」と改める。)。

4  更に、同控訴人は本件譲渡担保設定契約の被担保債権である貸金債権は二億円のうち訴外西尾信寛が着服領得した七九九〇万円については不成立である旨主張するので考えるに、〈証拠〉によれば、確かに昭和五八年一二月二四日大阪国際ホテルにおいて本件融資が行われた際、被控訴人代表者川中弘行から控訴人渡邊の代理人訴外松永に対し現金小切手合計一億七〇〇〇万円が手交され、その場に立ち合った司法書士を自称する訴外西尾信寛が訴外松永の了解のもとに受けとった内金七九九〇万円を後日不正に着服横領したこと、本件融資に関係する利害関係人は多数であり、かつ、本件融資の後に数度に亘り発生した大規模な詐欺事件に深く関与したものが含まれていること、控訴人渡邊の代理人である訴外松永、被控訴人代表者川中が本件融資に当たり立ち合わせた訴外西山謙一、同西尾信寛等はいずれも右詐欺事件の関係者であることから推して訴外西尾と被控訴人代表者川中の関係には相当の疑惑を抱かせるもののあることが認められるが、これ以上に西尾と川中の関係を明らかにすべき確証はないばかりか、同時に、右各証拠によれば訴外西尾の着服行為は川中の松永に対する金銭交付の後松永の了解のもとに受けとった七九九〇万円について行われたと認める外はないところからすれば被控訴人と控訴人渡邊の間の消費貸借は二億円全額について成立したものといわなければならない。

5  原判決一一枚目表五行目冒頭から同枚目裏末行目末尾までを次のとおり改める。

「2 抗弁1の(二)(弁済)の事実について判断する。〈証拠〉によれば、確かに、訴外松永が、訴外西山の依頼又は指示により同訴外人に対し昭和五九年七月二〇日に五〇〇万円、同月三一日に五〇〇〇万円、同年八月一〇日に一〇〇〇万円を、同様訴外西山の依頼又は指示により同人名義で被控訴人に対し同年七月二〇日に二五〇〇万円、同月三一日に二五〇〇万円、同年八月一〇日に四〇〇〇万円、同月二三日に五〇〇〇万円の合計二億五〇〇万円をそれぞれ銀行振込の方法で送金したことは間違いがない。しかしながら、同時に、〈証拠〉を総合すれば、訴外西山謙一は予てから被控訴人代表者川中弘行と深交を結び、政治資金等名下に億単位の多額な借金をしていたが、生来極めて巧みな虚言癖を有し、詐欺まがいの所業を繰り返していたものであること、訴外西山は本件融資金の返済資金調達に籍口し、訴外松永を利用して長崎第一信用組合外から金員を騙取することを企図し、昭和五九年春ころ松永、八幡卓士、長崎第一信用組合北支店長伊藤勝らと共謀のうえ、訴外西山において、数名の金融業者であるスポンサーに対し長崎第一信用組合に導入預金又は通知預金すれば高額の報酬が貰える旨言葉巧みに申し欺き昭和五九年七月から同年八月にかけ総額四億八〇〇〇万円以上を騙取又は指嗾して出資させたのちこれを松永に送金し、松永、伊藤支店長らをして正規の預金手続を採ることなく同組合に同額の預金がなされたかの如き内容虚偽の記載がある同組合の通帳を発行させ、かつ、松永に依頼又は指示して右送金額の約半額に相当する二億五〇〇万円を送金させるとともに右通帳を情を知らない前記スポンサーに交付してその場を取り纏い金員騙取の目的を遂げたこと、松永は自らは資金調達の能力が皆無であるため四億八〇〇〇万円中西山らに返送した二億五〇〇万円の残額を資金として長崎県諌早市所在の宅地造成事業を手掛け本件融資金の返済にも役立てようとしたが失敗に帰したこと、前記四億八〇〇〇万円を出資したスポンサーの金融業者は架空名義を含め達川正美、清本竹一、藤田忠左、坂本正雄、羽山武智雄、池田潤一等であり、

その中には被控訴人代表者川中弘行も存在するが、川中が西山の詐欺犯罪にどの程度関与しているかは証拠上必ずしも明らかでないこと、松永が西山及び被控訴人に送金した合計二億五〇〇万円は右四億八〇〇〇万円中の返金分であり、本来西山において川中らスポンサーたる金融業者から導入預金等名下に調達した詐欺資金であり、西山、松永、伊藤間において始めから西山に返還されることが約束されていたもので、松永の送金は全て西山の依頼又は指示に基づくことが認められ、当審証人松永関夫の証言中四億八〇〇〇万円は松永において長崎第一信用組合から導入預金等を担保に借り受けたもので西山とは無関係である旨の証言及び原本の存在と成立に争いがない乙第二六号証中長崎第一信用組合に対する詐欺事件において松永が独自の立場で西山以上に積極的にいわゆる導入預金等の詐欺資金を調達したかにとれる供述記載はいずれも前掲各証拠と対比して採用できない。右認定の事実からすると松永が西山らに送金した二億五〇〇万円が本件融資金の返済金の性格を有するものでないことは明らかである。

控訴人渡邊は二億五〇〇万円は本件融資金の返済金である旨強調するが、松永が西山及び被控訴人に送金した二億五〇〇万円の出処性格が右認定のとおりであるうえ、被控訴人に対する送金名義が西山であり、被控訴人としても当該送金が松永ないし控訴人渡邊の本件融資金に対する弁済金であることを知る由もないこと、西山と川中間に相当多額の貸借関係がある事実、松永が西山に送金した金員についても西山と川中の代理権限が必ずしも証拠上明らかでないこと、西山を目して被控訴人の控訴人渡邊に対する貸金債権の準占有者ともいえないこと等諸般の事情を彼比総合すれば松永名義で西山に送金した六五〇〇万円、西山名義で被控訴人に送金した一億四〇〇〇万円とも本件融資金の弁済に充当されたものと推認することは形式的にも実質的にも困難であるという外はない。他に、叙上認定を覆して、弁済により被控訴人の貸金債権が消滅した旨の被控訴人渡邊の抗弁1の(二)の事実を認めるに足りる証拠はないから、同控訴人のこの点の主張は採用できない。」

6  控訴人渡邊の引換給付の抗弁について検討する。

被控訴人が同控訴人に対し昭和六二年九月八日本件譲渡担保権を実行し、本件各不動産の所有権を自己に帰属させる旨の意思表示をなすとともに、同控訴人に支払うべき清算金がない旨通知したことは前引用の原判決理由説示のとおりである。

ところで、いわゆる帰属清算型の譲渡担保においては、債務者が債務の履行を遅滞し、債権者が債務者に対し目的不動産を確定的に自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしても、債権者が債務者に対して清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をしない限り、債務者は受戻権を有し、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させることができるのであるから、債権者が単に右の意思表示をしただけでは、未だ債務消滅の効果を生ぜず、したがって清算金の有無及びその額が確定しないため、債権者の清算義務は具体的に確定しないものというベきである(最高裁判所第一小法廷昭和六二年二月一二日判決民集四一巻一号六七頁)が、帰属清算型の不動産譲渡担保契約のうち、譲渡担保、売買予約等を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由したいわゆる仮登記譲渡担保においては、仮登記担保契約に関する法律一条の「仮登記担保契約」と右仮登記譲渡担保との形式的及び実質的同一性に鑑み、その担保権実行手続等は、譲渡担保権と仮登記担保権の本質的な違いに抵触しない限り、できるだけ同法律の規定を準用ないし類推適用すべきものであり、清算義務の具体的な確定手続及び所有権移転の効力の制限等についても清算期間を含めて同法律二条、三条を類推適用するのが相当と解すべきである。これを本件についてみるに、本件譲渡担保設定契約が仮登記を経由したものであることは前示のとおりであるから、同法律二条の清算期間が経過した昭和六二年一一月八日現在における控訴人渡邊の債務額と本件各不動産の適正評価額について更に審究するに、前者については、同控訴人の貸金債務は被控訴人から昭和五八年一二月二四日弁済期昭和五九年三月三〇日、利息日歩四銭一厘(年利一四・九六五パーセント)、損害金日歩八銭二厘(年利二九・九三パーセント)の約にて前利息三〇〇〇万円を天引きされて借り受けた貸金債務であるから、前同日現在の債務額を算出すれば、左の算式のとおり残元本一億七八〇一万五八三六円と約定遅延損害金一億九二二八万二三一六円の合計である三億七〇二九万八一五二円となる。

200,000,000 - {30,000,000 - (200,000,000 × 14.965/100 × (8/365+90/366))} = 178,015,836(円未満切捨、以下同じ)

178,015,836 × 29.93/100 × (276/366 + 365/365 + 365/365 + 312/365) = 192,282,316

後者については、仮登記担保権者は担保の目的物件に担保仮登記より先順位の登記上の権利等がある場合は当然それを引き受けることになるため、基準日における右権利等の被担保債権額を確定し、これを控除した残額をもって目的物件の適正評価額となすべきであるから、基準日における先順位権利の有無、それが担保権であるときは被担保債権額を確定すべきところ、〈証拠〉を総合すれば、本件各不動産中原判決別紙物件目録(一)ないし(六)の不動産については被控訴人の仮登記担保権に優先する住宅・都市整備公団の抵当権が設定されており、その被担保債権残額は、昭和六一年一月二五日現在で三億六八五二万〇二〇〇円、同六三年一一月二五日現在で二億七五四二万一七六六円であること及び公正証書(乙第七号証)記載の当初の約定どおり割賦金を支払ったとすれば基準日である昭和六二年一一月八日現在で割賦金残額は三億四〇六一万九一八〇円となること

1,509,510×120回 + 1,487,420 × 11回= 197,502,820

538,122,000 - 197,502,820 =340,619,180が認められるところからすれば、右基準日現在において同控訴人は住宅・都市整備公団に対し少なくとも三億四〇六一万九一八〇円の残債務を負担していたと推定するのが相当であり、そうとすれば被控訴人が本件譲渡担保権の実行により引き受けるべき住宅・都市整備公団の抵当権の被担保債権額は右同額の三億四〇六一万九一八〇円と推認すべきである。

しかして、〈証拠〉によれば、昭和六二年一一月八日現在において、本件各不動産中原判決別紙物件目録(一)ないし(六)の不動産の価額は、昭和六二年度北九州市固定資産課税台帳登録評価額のとおり、合計一億六八七四万九一一五円以上であり、同目録(七)、(八)の不動産の価額は昭和五八年度の北九州市の評価額合計九八四万九九八〇円を同目録(一)の宅地の昭和五八年度(甲第一一号証の二)と同六二年度(甲第一五号証の一六)の各評価額の上昇割合と同一の割合に引き直して計算した一三一三万三三〇六円であると推認するのが相当である。

〈証拠〉中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

9,849,980×20,638,080/15,478,560=13,133,306

(円未満切捨)

そうとすれば、被控訴人が本件譲渡担保権を実行するにあたり、清算の基準日である昭和六二年一一月八日現在において、控訴人渡邊の債務額は三億七〇二九万八一五二円であるのに対し本件各不動産中原判決別紙物件目録(一)ないし(六)記載の不動産の価額は合計一億六八七四万九一一五円、同目録(七)、(八)記載の不動産のそれは合計一三一三万三三〇六円にすぎず、更にこれから控除すべき本件仮登記の先順位抵当権の被担保債権額が三億四〇六一万九一八〇円であること前示のとおりであることからすれば、仮に本件各不動産の適正評価額について叙上認定の価額と取引きにおける実勢価格との間に相当の誤差がありうべきことを考慮しても、被控訴人において同控訴人に対し支払うべき清算金のないことが明らかであるといわなければならない。

してみれば、清算金の存在を前提として引換給付の判決を求める同控訴人の抗弁は失当であり、本件各不動産の所有権は被控訴人において同控訴人に対し本件譲渡担保権を実行し、本件各不動産の所有権を自己に帰属させる旨の意思表示をなすとともに、同控訴人に支払うべき清算金がない旨通知した昭和六二年九月八日からに二月後である同年一一月八日の経過により確定的に被控訴人の所有に帰したということができる。

二  よって、右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鍋山 健 裁判官 川畑耕平 裁判官 湯地紘一郎)

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